すばる望遠鏡
ハワイすばる観測
(東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修士課程入学予定 石垣真史)
12月11日から約1週間、大内先生がすばる望遠鏡で観測を行うということで、学部4年生のうちに同行させていただくことになりました。今回の観測では、z = 7.3という非常に遠方のライマン α エミッターを36時間という長い時間をかけて撮像します。それにより(1)小さな光度におけるライマン α エミッターの光度関数を求め、銀河進化や、IGM中の中性水素の割合についての情報を得ること、(2)ライマン αエミッターの数を調べることで電離光子が当時どのくらい存在していたかを見積ること、(3)SEDのデータから星の質量や分布について制限をあたえること、が目的となります。
すばる望遠鏡はハワイ島のマウナケア山の山頂のすぐ近くにあります。日本を飛び立ったのは深夜0時30分。マウナケアも、ハワイも初めてだったので、飛行機が出発したときから期待と緊張でいっぱいでした。ホノルルで飛行機を乗り継いでハワイ島のヒロへ。12月だというのに、ヒロ市内は暑くてジメジメしていました。
観測で宿泊するのはヒロ市内ではなく、標高2800mまで登ったところにあるハレポハクです。飛行機が到着したあと、すぐに車で山を登っていきます。ぐねぐねした道をどんどん上がっていくと、周りは低い草木と岩の景色に。
ハレポハクに到着すると、空気が薄く、非常に乾燥しているように感じました。でもまだここは山の中腹。ハレポハクに一日滞在して体を慣らしたあと、いよいよ標高4200mの山頂近くまで登っていきます。
ハレポハクはふかふかのベッドとボリュームたっぷりのご飯で、とても快適でした。明日からの4晩という長い観測に向け、ひとまずたっぷりと睡眠をとることにしました。当然観測は日の出ていない時間帯に行うので、これからは昼夜逆転した生活が続きます。
そして翌日の夕方。まだ日が沈んでいない時間でしたが、観測の準備もあるので早めに山頂へ向かいます。車で20分ほど走ったところで、赤茶の山の上にすばるやケックなどが姿を現しました。大自然の中に望遠鏡の一群が佇む光景はなんとも不思議な感じがしました。
車を降りて観測所へ向かいます。想像していたほど寒くはなく、雪も積もっていませんでした。しかし空気は非常に薄い。息をしているのに、酸素が全然肺に入ってこないような、不思議な感覚。少し頭がぼーっとしてきます。
山頂の空気に少し慣れてきたところで、同行しているオペレーターの方が施設内の案内をしてくださいました。ヘルメットをかぶり奥のほうへ進んでいくと、さっそく望遠鏡の本体が見えました。高さが20m以上あるその青いボディーは、真下から見上げるとなかなか迫力があります。今回の観測で使うカメラは、望遠鏡上部に取り付けられたSuprime-Cam。主焦点で集光するので視野が広く、満月の大きさほどの天域を一度に撮像することができます。その奥には次世代のさらに大型のカメラ、Hyper Suprime-Camも置かれていました。
ひととおり見学を終えたあと、いよいよ観測開始です。しばらくすると、一枚目の画像が送られてきました。見えているのはほとんどが近くの星。これを何枚も重ねていくことで、遠くの銀河のかすかな光が浮かび上がってくるそうです。
20分おきくらいに新たな画像が観測室に送られてくるので、交代でそれをチェックし、シーイングや雲の有無など、気づいたことをログに書きこんでいきます。写っている星に歪みがないかも常にチェックし、歪んでいるときは望遠鏡の位置を調整し補正していきます。
今回の観測で得られる画像は膨大な数になるわけですが、その中の何枚を使わせてもらいデータ解析の練習をしました。生のデータから最終的な画像を得るには、一つ一つの画像を重ね合わせるだけでなく、バイアスやスカイを差し引いたりなど様々な作業をする必要があります。そうして得られた画像には、大小様々な銀河が写っていました。今回は見かけの等級でのnumber countを求めることが出来ました。High zの銀河を見つけるためには、さらにcolorを見るなどして近傍の銀河を振るい落とす必要があります。
望遠鏡で観測というとなんだかきれいなイメージですが、実際は膨大な数字とにらめっこして、結果が出るまでひたすらパラメータをいじりプログラムを書き、といった非常に地道な作業でした。でも、そうした作業もやり始めるとなかなか面白く、その中から科学的に意味のある結果が得られたときは非常に満足感がありました。何より、今まさにはるか遠くの宇宙を垣間見ているんだと思うとワクワクせずにはいられませんでした。
観測の合間に、少しの間外に出ることができました。上を見るとそこは一面の星空。空気が薄くあまり揺らがないため、星が瞬かず天球に張り付いているようです。ちょうどふたご座流星群の時期でもあり、少し見ているだけでも次から次へと流れ星が降って来ました。周りに人工の明かりはなく、道を照らすのは星の光だけ。ここはまさに、世界で一番星空を見るのに適した場所だと感じました。
観測所にいる間は長く感じた4晩でしたが、終わってみるとあっという間でした。はじめの頃は高山病で頭痛に苦しんでいましたが、3日目からは体もすっかり慣れてしまい、高山にいることも忘れてしまうほどでした。今回実際にすばる望遠鏡まで行くことで、リアルタイムで出力されるデータに触れ、解析の手法を学ぶことができました。また、実際の観測の雰囲気を感じることができたのはとても良い体験となりました。いずれは自分でプロポーザルを書き、自分の名前でここに来ることができたらと思います。