Keck望遠鏡
観測篇
(東京大学大学院理学系研究科天文学専攻修士課程1年 今野彰)
私は2012年11月13-14日に、大内先生と嶋作研の中島さん(博士課程2年)、大内研の玉澤さん(入学予定)と共にハワイにあるW. M. Keck Observatoryへ観測に行きました (図1)。W. M. Keck Observatory が所有するKeck望遠鏡は世界で最も大きい望遠鏡の一つで、我々の研究テーマの一つである「宇宙史初期の解明」に適した望遠鏡でもあります。
今回Keck望遠鏡を用いた観測の目的は、赤方偏移7.3の(今から約129億年前の宇宙にある)Lyman Alpha Emitter (LAE)と呼ばれる銀河を分光観測により調べる事です。この銀河は、これまでの分光同定できたものの中で最遠方の銀河(赤方偏移7.2)よりもさらに遠い銀河であり、この観測研究はまさに最先端の研究と言えます。
今回のKeckでの観測は、望遠鏡のあるマウナケア山頂からではなく、標高の低いワイメアという町の中にあるリモート観測施設から行いました。我々の観測は午後2時頃から始まります。そこから日が沈んで夜になるまで観測のセットアップを行います。このセットアップでは、Keck望遠鏡のサポートアストロノマーと相談しながらリモート観測の方法を学び、分光観測の下準備を行います。そして辺りが暗くなる午後7時頃から望遠鏡を目標の天体に向け、いよいよ観測が始まります。観測自体は長時間露光と分光スリットの交換をリモートで行うことをしますが、その間も我々は作業をします。その一つに観測ログの記録があります。あとでデータ解析をする際に観測データの情報を知る事ができるため、観測ログをとる事は重要な作業になります。他にも観測データのクイックルックも行います。クイックルックを行う事で、観測データの質を調べる事ができ、これからの観測の方針を決めたりする事もあります。このクイックルックの結果、赤方偏移7.3のLAEが2つ発見できた可能性が出てきました。私は実際にその分光データを見ましたが、確かにその天体の特徴を表すLyα輝線が検出されていたため、まるで歴史的瞬間を目の当たりにしたようで感銘を受けました。そして朝が近づいて空が白むまで観測を行い、校正データを取得して午前7時頃に観測が終わります。以上が観測の大まかな流れとなります (図2)。
最後に、修士課程1年という早い段階でこのような最先端の研究に触れることができ、また観測の現場に実際に携わる事ができたのは大変貴重な経験だと思います。近い将来、自分で観測の提案をし、自分でKeck望遠鏡のような大型望遠鏡を用いた観測をする事ができれば良いなとも思いました。